おかあさんのダイコンに寄せて

20代半ばの一時期、オーストラリアに住んでいたことがある。食材は安かったので、自炊している限り生活費は大してかからず、貧乏な若者には有難かった。週末の青物マーケットにはよく行ったし、当時はふつうに肉も食べていたから、ときどきは肉屋にもお世話になった。カルチャーショックは、どこでもすべて「キロ単位」だったことである。牛肉1キロいくら、トマト1キロいくら。100グラム単位表示に慣れている日本人には新鮮だった。周りのお客さんもキロ単位か、少なくともhalf a kilo、すなわち500グラムで買っていく。しかし、こちとらビンボーひとり暮らしである。肉なら冷凍できるとはいえ500グラムも買う自信は財布にも胃袋にもなく、遠慮がちに100グラムください、とか言って「huh?」と聞き返されたものだ。

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久しぶりに同種のショックを受けたのが、数日前のこと。福島に来てから知り合ったSさんの家では、お義母さんが立派な畑をやっていらっしゃる。そこへ年に2回ほど、「収穫のお手伝い」という名目でリヤカーいっぱいの野菜を頂戴しにいくことになっており(すいません、私が勝手にそういうことにしているだけです)、その日は冬野菜の収穫だった。といっても、私がやった仕事は立派なダイコンを3~4本引っこ抜いたくらいだが、お昼ごはんとお茶までごちそうになり、恐縮至極。そしてそのお茶請けにいただいた自家製タクアンが、これまた美味至極。レシピを乞うと、ダイコン10キロに対して、まず塩500グラム… ふむふむ、とメモを取る。

いや、まて。ダイコン10キロって何本くらいなんだろうか。というか、ダイコン10キロをどうやって計るのか?うちのキッチンスケールは1,000グラムまでしか測れない。どこかに体重計があったはずだが… てか、10キロのタクアンを作ったら売って歩かなければならない。いや、売れればいいが食べられない代物ができたら困る。初心者おひとりさまは、すべて20分の1で計算しなおそう。

もうひとつ似たような話。うちにははるか昔に実家からもらいうけたクロッククッカーという調理器があって、その付録のレシピ集が昭和という時代を映し出している。ほとんどが出来上がり56人分なのだ。当時の家族は、そのくらいのサイズが珍しくなかったのだろう。そういえば、うちも子供のころはおばあちゃんがいて5人家族だったよね… しかし、いまや年季の入ったおひとりさま生活、普段の料理はせいぜい2人分が目安である。たまにそのレシピ集を参考にするには1/3とか2/5とかの再計算が必要で、ちと面倒くさい。

そうだ、Sさんのところは3世代6人家族だから差し上げようか。いや、お義母さんにはこんな料理本はいらないよな。てか、クロッククッカー本体を一緒に差し上げないと意味ないよな(笑)

DSC_0657こうしていただいた野菜を周りにおすそ分けすると、お返しに今度はイクラだの果物だのをいただく。イナカでは、現金を介さない物流というのがたしかに存在するのだ。現にSさんの家では(原発事故の直後を除いて)野菜は買ったことがないというし、この辺りにはそういう兼業農家は少なくない。いまスーパーでは天候不順とかで野菜が高騰しているらしいが、Sさんの畑はまったく影響がないようだった。

世界がどんどん不穏当になっていく気配がするいま、サバイバルの基本はやはり「自家菜園」だろう。そろそろ本気で土地を探さなければ。Sさんの畑を歩きながらつくづくそう思ったのだった。

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